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「太陽光でロックを!」中津川 THE SOLAR BUDOKAN 2017に行ってきた


2017年9月23日(土)中津川ソーラーのもうひとつの顔 ヴィレッジ・オブ・イリュージョン

丘をおりる途中、アパレルや雑貨のお店が並ぶエリアに引き寄せられていく。ちょっとしたフリマのようで歩いているだけで楽しくなる。クレジットカードが使えるお店が多いところもいい。ここもまた年々充実していってるようだ。一通りお店を見てまわって多目的広場へ。ここが中津川ソーラーのメイン会場。広大な敷地はサッカーなら一面まるまる余裕でとれるという。地面にはきれいな芝が敷き詰められている。芝のふかふかした感触が気持ちいい。ここにレヴォリューションとレデンプションという2つのステージが設置されている。手前の大きなステージがレヴォリューション。奥にあるのがリデンプションだ。音がかぶらないようにライブは交互に行われる。広場の入り口と、一番奥にはソーラーパネルが並べてある。リデンプションではTHE BACK HORNがライブをやっていた。オーディエンスでびっしりと埋まっている。代表曲「コバルトブルー」が流れてきて、ライブは最高潮に。続いて「刃」が演奏され、大団円を迎える。ジャジーなノリのリスペクトとは対象的な光景だ。オーディエンスも音楽リスナーのど真ん中世代。まさに誰もがイメージするフェスの光景だ。フェスは多様であればあるほど面白い。「さようなら世界夫人よ」と「ハウンド・ドッグ」と「コバルトブルー」が同じ場所で鳴る面白さ。それがフェスの醍醐味だ。ただ、このフェスが独特なのは、それらが「太陽光でロックを!」という合言葉で結ばれていること。多様な曲は点として存在しているのではなく、フェスのテーマで結ばれ、線になっている。後で聞いた話だが、THE BACK HORNもMCで音のよさと環境のよさに言及していたらしい。

このフェスの理念に賛同し、参加するアーティストも少なくない。第1回目から出演を続けるACIDMANや、ほぼレギュラー出演とも言えるトライセラトップスもそうだ。彼らの中津川ソーラーへ向かう気持ちも、このフェスを支えているひとつの要因だ。ACIDMANもトライセラトップスのステージからも「中津川ソーラー愛」が溢れている。トライセラトップスのライブを途中まで見て、再びリスペクトへ。リスペクトに着いた時には、すでにNulbarichの演奏が始まっていた。Nulbarichはソウルやアシッドジャズをベースにしたダンスミュージックをプレイするバンド。バンド名には「何もないけど満たされている」という意味が込められているという。中心メンバーはボーカル、トラックメイカー、プロデューサーのJQ。バンド・メンバーは固定されていないという話だったが、彼のインタビューを読むと、一応固定はされているが、スケジュールによって、ステージに立つメンバーが変わるとのこと。この日は、ギター×2、ベース、ドラム、キーボード、そしてJQの6人編成。ビッグバンドよろしく、JQを中心にハの字型の陣形。サウンドはソウルフルでクール。しかしその根底にはロック的な破壊力を秘めている。繊細さよりもダイナミズムに重点が置かれ、ただのオシャレなバンドではないことがわかる。このロック感にすっかりやられてしまう。JQは「音楽の力を感じさせてくれるフェス」と前置きした後「何か変わる時は何かしら壁がある。でも助け合えば必ず乗り越えられるもの」「音楽で世界は変えられないかもしれないが、やるだけやりましょう」とMC。「新しい時代」を意味する「NEW ERA」を演奏した。Nulbarichのソウル感とロック感が出会った曲だ。CHAIもそうだが、最近はライブ一発で虜になることが多い。CHAIが本格的に活動を始めたのが2015年。Nulbarichは2016年。「NEW ERA」の到来というところか。

 

再び多目的広場へ向かう。レヴォリューションではオーガナイザー佐藤タイジのバンド、シアターブルックがプリンスの「パープル・レイン」を演奏していた。この曲は佐藤タイジのソロでも披露されている。フジロックでも披露していた。まるでプリンス本人が憑依したようなパフォーマンスだ。佐藤タイジはこの曲を歌い継ぐことを自分に課しているのかもしれない。次が「もう一度世界を変えるのさ」。この曲はこのフェスのテーマソングのようなもの。シングルのレコーディングはすべて太陽光発電で行われた。そして最後が「1995年に作った、太陽についての曲」、「ありったけの愛」。佐藤タイジ曰く「この曲がここに導いてくれた。音楽が常に先を行っている。そのことを若いミュージシャンにも伝えたい」。言うまでもなく音楽は作り手の感情がダイレクトに反映する。歌が生まれた理由が明確な場合もあるし、そうでない場合もある。しかしそこにはアーティストの無意識が反映される。だから忌野清志郎の歌のように、現代の不安を予見するようなリリックが10年も20年も前に歌われることもある。「音楽が常に先を行っている」のだ。もしも中津川ソーラーが「ありったけの愛」が導いたフェスだったら「音楽で世界を変えられるわけないよ」という捨て台詞がニヒリストの戯言のようにも聞こえてしまう。最後に佐藤タイジはオーディエンスに向かって「ここにいることを誇りに思ってほしい」と言ってステージを降りた。

夕方になり体力が限界を迎える。いくら快適なフェスとは言え、50も半ばを過ぎるとフェスをくまなく見るのは無理がある。すでにリスペクトに戻る力はなく、夜の帳が下りる中、みんながそうしているように、芝生の上に寝転がった。草のいい匂いがただよってくる。背中に当たる芝の感触も気持ちいい。後で、フラワーカンパニーズが物凄いライブをやったと聞いて、後悔したが、その時はどうしようもなかった。中津川公園は小高い山の中腹にある。遠くには御嶽山を始めとする木曽山脈の山々が見える。2日とも夕焼けがとてもきれいだった。東京から新幹線で1時間半。名古屋で在来線に乗り換えて各駅停車で1時間半(快速なら1時間で)中津川に着く。シャトルバスに20分乗ると会場に着く。当日の朝、東京を経っても開演時間に間に合う。岐阜県中津川市というと随分遠いイメージがあるがアクセスは予想以上に簡単。宿の確保が難しいが、名古屋に宿をとってもいいし、場内にはキャンプ場もある(チケットが別途必要)。アクセスがいいのでそんなに遠くに来たという感覚はない。手軽に日常をリセットできるフェスだ。

 

20時をまわった頃、レヴォリューションの前にはたくさんのお客さんが。この日のヘッドライナーは吉川晃司。20時15分、会場に「BE MY BABY」のイントロが流れる。するとステージ下手からバンドが登場。メンバーはTHE YELLOW MONKEYの菊地英昭(gt)、Nothing’s Carved In Stoneの生形真一(gt)、the HIATUSのウエノコウジ(b)、ホッピー神山(key)、湊雅史(dr)。そうそうたる顔ぶれだ。満を持して吉川晃司が登場。1曲目はそのまま「BE MY BABY」。いきなり得意技のシンバルキックを披露。楽曲が終わると、そのまま「LA VIE EN ROSE」へなだれ込む。頭からメガヒット曲を連発する潔さに驚いていると、すぐさま「SPEED」へ突入。3曲めで一息入れるかと思いきや、4曲目の「The Gundogs」へ。終わったら間髪入れずに5曲目「GOOD SAVAGE」が始まった。結局5曲をインターバルなしで演奏。当たり前だけど、吉川晃司はその間、ずっと歌いっぱなし。フェスではなく吉川晃司ショウに紛れこんだのではないか、と錯覚してしまいそうだ。6曲目の後、ここでようやくMCが。「すみません、トリになってしまいました」。拍子抜けするほど脱力したMCが。そう言えば、アンコールの時も「終わったら岐阜の美味しいお酒を飲もうと思います」とまるで茶の間の会話のようなトーンで語っていた。ところが、一旦、楽曲の世界に入ると、めちゃくちゃストイックに歌を決める。加えてこれでもかというオーラを放つ。その落差がとても面白かった。吉川晃司自身もその落差を楽しんでいるかのようだった。アンコールまで全9曲。濃密な吉川晃司の世界が多目的広場全体を支配。1時間の間、まるでそこは別世界のようだった。だから吉川晃司はスターなのだ。

ヘッドライナーが終わってもフェスはつづく。リアライズへ移動。21時45分から映画『ザ・ヒューマン・ライツ・コンサート 1986-1998』の一部を上映するという。この作品は、世界最大の人権NGO「アムネスティ・インターナショナル」を支援するため、ロック界のスーパースターたちが集結したライブだ。日本でもブルース・スプリングスティーン他を招聘して東京ドームで行われた。もちろん昼間に蓄電していた太陽光による上映だ。ソーラー映画館だ。リアライズに着いた時には、スクリーンの中でシンニード・オコナーが圧巻のパフォーマンスを繰り広げていた。次がマイルス・デイヴィスによるロング・セッション。レコードで聴くマイルス・デイヴィスとは全然違うものだが、火花散るインプロビゼーションは圧巻。さらにルー・リード、スティング、ブルース・スプリングスティーン、U2と素晴らしいパフォーマンスがつづく。日本のアーティストがメインのフェスに海外アーティストを呼ぶのはとても難しい。が、こうやって映画を上映することで、気分だけでも洋邦揃い踏みとなる。ローリング・ストーンズやポール・マッカートニーやザ・フーのフィルムやBlu-rayをここで見られたら、どんなに最高かと思う。最終のシャトルバスが出た後だっただけに、お客さんの数は少なかったが、この企画はつづけてほしい。ちなみに12月27日(水)に渋谷WWW Xにて、シアターブルック、the band apart他の出演で、アムネスティ・ジャパン・コンサート2017が行われるそうだ。

 

終映後、丘の上へ上がると、ヴィレッジ・オブ・イリュージョンがオープンしていた。バーやスナックが開店して、昼間とは全く違う風景になっている。フジロックのTHE PALACE OF WONDERのような雰囲気だ。たくさんのお客さんでごった返していた。ヴィレッジ・オブ・イリュージョンを楽しむという目的だけで、キャンプをするのもいいと思う。というか、この空間を体験しないと、中津川ソーラーの全貌を知ったことにはならない。そこではライブも行われる。足を運んだ時には、ヒューマン・ビート・ボックスとタップ・ダンスのパフォーマンスが始まっていた。酔っ払って大声で喋っていたグループが会話をやめて、2人のパフォーマンスに見入っていたのが面白かった。その後、ステージには武藤昭平withウエノコウジが登場。曰く「こんなにお客さんがいるとは思わなかった」。たしかに深夜の中津川ソーラーがこんなに盛り上がっているとは思いもしなかった。自称「打ち上げバンド」を名乗る彼らはなかなか曲をやらない。オーガナイザーの佐藤タイジは先に帰ったとか、吉川晃司に武藤昭平を紹介するのはまだ早いとか、愚にもつかない話で会場を盛り上げていた。ステージの前を占拠したたくさんのお客さんは爆笑していた。一旦、アコースティックギターをかき鳴らすとめちゃくちゃかっこいいのだが。彼らのフランクな雰囲気がヴィレッジ・オブ・イリュージョンの解放的な空気とマッチして、とても楽しい時間となった。時計を見たら24時近かった。楽しい1日はあっという間に終わった。まだまだ盛り上がるヴィレッジ・オブ・イリュージョンを後にして、明日に備えることにした。

photo by 三浦麻旅子/岡村直昭

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