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「太陽光でロックを!」中津川 THE SOLAR BUDOKAN 2017に行ってきた


2017年9月23日(土)リスペクトステージの開会宣言でスタート

11時をまわったところで、トップバッターのSCOOBIE DOが登場。いつものようにスーツを決めてステージに登場。ファンキーなダンスナンバーを次々に叩き込んだ。どちらかというと、リスペクトはアコースティックなテイストやジャジーな雰囲気の演奏をするアーティストが多い。それを考えると、SCOOBIE DOは異色。しかしフェスの始まりには勢いが必要だ。その役割を全うするかのように、SCOOBIE DOはアグレッシブなソウル・ナンバーで会場を盛り上げた。セットリストの中で一番印象的だったのが「AWAY」。「最初は誰でもアウェイだけど、ここがホームに変わるまで決して負けない」と歌われるこの曲は中津川ソーラーの立ち位置とも重なる。太陽光発電は、今はアウェイかもしれないが、今にホームに変わる時がやって来る。

SCOOBIE DOが終わって、フードエリアへ。お昼ご飯は焼きそばを食べた。このフードエリアにも中津川ソーラーのこだわりがある。各屋台の前に、食品に含まれる線量を表示してあるのだ。原発事故が起きたのは事実。放射能が飛散しているのも事実。食品が少なからず汚染されているのも事実。ならばその事実に向き合って、どうやって内部被曝を避けるのかが、3.11以降を生きるぼくたちの課題だ。闇雲に風評被害と叫ぶのも、闇雲に汚染を叫ぶのも意味がない。きちんと検査をして汚染されていないものを食べればいいだけの話。それにはベクレル表示が一番有効。とくに中津川ソーラーには小さな子どもたちがたくさん来ている。何でも中津川市内の小学校の給食では全品放射線測定を行っているという。そこに歩調を合わせるという意味でも有意義な行動だ。

 

焼きそばを食べた後、ふれあいセンターへ。この中にもいろんなブースが出店している。全日本フォークジャンボリーの写真や資料も展示してある。ハンドメイドのギターや電力会社シフトのキャンペーン・ブースもある。一番奥ではFM局の生中継もやっている。その中で目についたのは3枚の看板。「地球上に降り注ぐ太陽エネルギーをすべて変換・利用できれば、1時間で世界中の約1年分のエネルギーをまかなうことができる」「太陽光発電は日の長い夏よりも、実は春の方が発電量は多い」「太陽電池の原材料のシリコンは地球上に膨大な量で存在する砂や岩の中に多く含まれている」。この看板によると、地殻中の元素の存在度は酸素に続いて2位。アルミニウムの3倍以上、鉄の5倍以上が存在しているという。こういう知識は、自然エネルギーシフトの推進力になる。これ、大きな看板にして、あちこちに掲げたら面白いと思う。

時計を見たら12時半を過ぎていた。あわてて入場ゲート脇のリアライズへ。PANTA(頭脳警察)がすでに演奏を始めていた。PANTAの歴史も長い。もうすぐ芸歴50年だという。PANTAは常に社会問題と向き合い、それを歌にしてきた。しかしその手法は情に訴えるベタなアプローチではない。常に客観的な視座から社会問題を批評し、切り刻み、皮肉を交えながら、ロックのリリックに落とし込んできた。言葉の選び方のセンスは秀逸。どんなに古い時代の曲でも、空気を切り裂くようなシャープさを保っている。そこがPANTAの生命線でありオリジナリティだ。だからPANTAの歌はいつ聴いてもかっこいい。1981年に聴こうが2017年に聴こうが刃のようなロックンロールだ。この日は、ユダヤ人虐殺のきっかけになった「水晶の夜」をテーマに作った30年前のアルバム『クリスタルナハト』の曲も披露。なんでも全曲再現ライブをやるそうだ。そう言えば、30年前『クリスタルナハト』のリリースパーティに行った。PANTAの意向で会場にはパンとワインが用意されていた。30年後の中津川では、真っ昼間から当時と同じように、鋭い言葉がサウンドの上で躍る。その言葉の過激さ故に、PANTAの作品は発売禁止になったこともあった。PANTAは「最初に消されてもよかった頭脳警察なのに、あと2年で50周年を迎えます」と言って笑った。最後は、当時、発禁にされた曲「さようなら世界夫人よ」で終わった。

 

リスペクトがある丘を一番上まで登る。そこではアーティスト・グッズを売るブースや飲食の屋台が軒を連ねている。その一番奥にレジリエンスがある。そこではSCOOBIE DOのMOBYのDJがクライマックスを迎えていた。最後はSCOOBIE DOの新作『CRACKLACK』収録曲「Cold Dancer」で締めるはずが、CDプレイヤーにトラブル発生。「ここはヒロトさんに助けてもらいましょう」とTHE BLUE HEARTSの「情熱の薔薇」をプレイ。その間にCDプレイヤーが息を吹き返し、予定通り「Cold Dancer」で終了した。レジリエンスの脇をくだっていくとリスペクトに抜けられる。LIVE FOR NIPPONのサウンドチェックが進行していた。LIVE FOR NIPPONは3.11以降、下北沢風知空知で定期的に開催されているイベント。「太陽光でロックを!」のアイディアもLIVE FOR NIPPONで生まれ、日本武道館~中津川へと繋がった。そのセッションを今日は下北沢ではなく中津川でやろうというのだ。

13時40分、LIVE FOR NIPPONのセッションがスタート。本来ならレジェンド小坂忠を迎えて行われるはずだったが、8月に病気で倒れてしまった。現在療養中だ。主役不在のステージを盛り上げるように、そして小坂忠の復帰を願いながら出演者は持てる力を出して演奏を繰り広げた。そのトップバッターがRock isで連載を担当している山﨑彩音。18歳のシンガーソングライターだ。3曲だけの披露だったが、とくに最後の「キキ」は圧巻だった。もともと「キキ」は内省的な歌だ。晴天の野外フェスに合うかどうか心配だった。ところが楽曲の大きさが広い空間とマッチし、外に向かってどんどん広がっていった。丘の上から吹き下ろす風すら演出の一部のようだった。フェスの喧騒はその瞬間だけ静寂に変わった。山﨑彩音が歌う「ルー・リードとコカ・コーラ」というリリックが響き渡った。あらためて「キキ」という曲のポテンシャルを知ることになった。これをいかにして超えるのか。18歳の少女にとってはいささか重い課題だが、歴代のミュージシャンはそこを軽やかに、あるいは苦闘しながら超えていった。次に登場したのがNO GENERATION GAPS。うじきつよしとa flood of circleの佐々木亮介のユニットだ。誰が何と言おうとうじきつよしは子供ばんどのスーパーギタリスト。ライブに命をかけたロックンローラーだ。本当なら佐々木亮介とガンガン、エレキ合戦をやってほしいところ。いや、アコースティックセットながら、その情熱だけは伝わってきた。いささかファンキーなお爺ちゃんになってしまったが、ロックに対する熱はまだまだ燃えている。とてつもなくかっこいいギター・アルバムを作ってほしい。そこへ佐藤タイジが加わり、小坂忠の代表曲「ほうろう」を歌う。来年はぜひ小坂忠にはリベンジをしてほしい。そしてトリで登場したのがSOLAR BLUES。永井“ホトケ”隆、うつみようこ、Kotezのブルース・ユニット。一流ミュージシャンンプスーパーセッション。個人的にはKotezのブルース・ハープに終始ぶっ飛ぶ。この人のハープはまるで生き物のようだ。音に生命が宿ってる。それから引き算の美学がある。ガンガン押すのではなく引くことのすごさ、かっこよさにすっかり魅了された。本編最後は「ハウンド・ドッグ」を演奏。もちろんエルヴィス・プレスリーではなくビッグ・ママ・ソーントンのバージョンだ。うつみようこが見事なボーカルを聴かせてくれた。最後は出演者全員でブルース・セッション。小坂忠がいたらまた違った光景が見られたのだろうが、それはまた来年のお楽しみ。

photo by 三浦麻旅子/岡村直昭

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