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森内淳の2018年7月 ライブ日記
7月は毎年フジロックに行く。1年を通しての最大のお祭り。かつ最大のライブ鑑賞の場だ。毎年AVALONのアトミックカフェのステージを作らせてもらっているので昼間のライブは見られないが、それでもフェスを満喫させてもらっている。忖度抜きでいうと、フジロックを超えるフェスはない。7月はフジロックがあるのでライブは控えめ……のはずだったが、割と見に行っている。それどころか本来なら身体と頭を休めるはずの、フジロックから帰った日と翌日にもライブに行った。ライブ三昧の7月だった。
7月2日(月)TSUTAYA O-Crest 秋山黄色 他
秋山黄色のバンドバージョンのライブ。宇都宮で見たのはアコースティックギターでの弾き語りだったが、今日は3ピース編成。秋山黄色の最大の特徴はボーカル力。アコースティックよりも、かえって技術力の高いサポートメンバーから繰り出される分厚いサウンドをバックにした方がボーカル力が生きる。ギターを激しくかき鳴らしながらうたう様子からは、自宅にこもってYouTubeやサウンドグラウドに黙々と楽曲をアップしつづけていた姿はもはや想像できない。秋山黄色は「やさぐれカイドー」を、8月には「猿上がりシティーポップ」を配信リリース。
7月3日(火)渋谷WWW Songbards,バレーボウイズ 他
ジロッケンのイベントへ。仕事のため、4バンド中Songbardsとバレーボウイズしか見ることができず。Songbardsはビートルズから多大な影響を受けているバンド。美しいメロディと歌詞を抽出し、日本語のポップスに仕上げている。一方、バレーボウイズは歌謡曲やニューミュージックのメロディに近い。ところがアレンジはロック。前田流星のパフォーマンスはパンク。オオムラツヅミは創作ダンスをやりながらうたう。歌唱は6人全員による「合唱」がコンセプト。このコンセプトを通して不統一な要素がひとつに。歌のメロディがいいのであっという間にブレイクするのではないかと思っている。
7月12日(木)恵比寿リキッドルーム CHAI
CHAIのワンマンライブ。今回は恵比寿リキッドルーム公演。思えば、下北沢ベースメントバーで初ワンマンを見てからまだ1年くらいしか経っていない。下北沢ベースメントバー完売→渋谷WWW完売→キネマ倶楽部自主企画イベント完売→恵比寿リキッドルーム完売→渋谷クアトロ追加公演完売。今年の暮れにはZeppTokyo公演が決定した。CHAIの魅力はすべての曲をベースから作るという圧倒的グルーヴ感。MCも含めパフォーマンスまで計算され尽されている。こういうパターンはロックでは見られなかったもの。アンチロックをロックでやるというこじれたスタイルは彼女たちの独創性として定着。ライブがアンコールも含め70分しかないといところも冗長なショウに対する批評のよう。フェスやイベント慣れした若いリスナーからすると、ちょうどいいタイム感なのかもしれない。そういうトレンドをキャッチする嗅覚の鋭さと、素早く実践に移す、いい意味でのあざとさも彼女たちの人気の秘密だ。
7月13日(金)日本武道館 ACIDMAN
ACIDMANのライブを見に武道館へ。彼らの楽曲作りのテーマは宇宙の真理の探究。大木伸夫(vo,gt)が音楽を聴きはじめたころからのテーマ。今回はそれがアルバム『Λ(ラムダ)』に結実。ちなみに「Λ」とは宇宙論で宇宙定数をあらわすそう。と書いてみてもピンと来ない。ACIDMANはこのディープなテーマを具現化するために作品をつくり、ライブに挑む。その熱量が彼らのロックといっていい。今回は美しいライティングとレーザー光線とミラーボールを多用した視覚効果を駆使。エモーショナルな楽曲と視覚効果の相乗効果で、武道館に壮大な宇宙空間を生み出していた。
7月14日(土)ROCK CAFE LOFT マイク越谷,松村雄策
マイク越谷氏主催のトークイベントを見に新宿へ。ゲストは作家の松村雄策氏。松村氏、久しぶりの公的な場所への登場とあって会場は超満員。今日は越谷氏がビートルズを、松村氏がストーンズを選曲するという趣向。はっきりいってこの企画は消化不良。素直にお互いが得意分野のバンドを紹介したほうがよかった。松村氏は、ジョン・レノンが『スターティング・オーヴァー』で復活するまでハウスハズバンドをやっていたことに対し「決してハウスハズバンドをやったのではなく、ジョンは疲れていて音楽を作れなかった時期にすぎなかったのではないか。率先してハウスハズバンドをやったのではない。あの期間も常に音楽を作ろうとしていた」と持論を展開。こういう独自の視点の評論をもっと聞きたかった。
7月15日(日)渋谷CLUB QUATTLO THE COLLECTORS
ザ・コレクターズの渋谷クアトロマンスリーシリーズも7回目。1曲目は「ツイスター」。名盤『東京虫BUGS』のラストを飾るロックンロール・ナンバー。そこから「占い師」「スーパー・ソニック・マン」「ロボット工場」とポップな展開へ。しかしながらコレクターズの「ポップ」は一筋縄ではいかない。彼らの「ポップ」は皮肉やブラックなユーモアに溢れている。これが彼らのオリジナリティ。12回連続のライブシリーズが飽きないのも、独自性に溢れた楽曲を多数持っているから。それを証明するかのように途中ヘビーなロック・ナンバー「THE HAMMER AND SICKLE」を投下。会場の雰囲気をガラリと変える。先月ステージで約束した通りレコーディング中の「新曲」も披露。結成30年オーバー。コレクターズの手管はまだまだ増えていく。
7月16日(月)Zher the ZOO YOYOGI リクオ
リクオのライブを見に代々木ザーザズーへ。リクオは常日頃、社会問題へもコミット。シリアスなテーマを持つ楽曲もある。そんな曲でもアレンジは常にハッピーでアッパーなロックンロール。そこがポップ・メーカー、ロックンロール・メーカー リクオの真骨頂。ポップに踏みとどまってこそシリアスなテーマも昇華できることを知っている。今日のライブはコーラスに真城めぐみが参加。途中でウルフルケイスケも登場。ウルフルズで鍛え上げたウルフルケイスケのエンターテイメント魂はさすが。出てきただけで一気に会場が華やいだ。真城めぐみのコーラスもいうまでもなくて花がある。この2人が放つ明るさとリクオの曲が共鳴し、ライブは最後までポジティブな空気で覆われていた。
7月19日(木)新代田FEVER LEO IMAI
LEO IMAIのライブを見に新代田FEVERへ。ニューアルバム『VLP』のリリースパーティー。当然のことながら、全員が楽器を抱えて登場。ところが演奏が始まらない。冒頭30分はアルバム解説と元ネタ紹介というトークショウ。LEO IMAIによるとこのコーナーはすこぶる不評らしい。一旦引っ込んで、アンコールという体でライブがスタート。ここからは新作を中心に重量級のビートがライブハウスを支配。熱狂と共に60分間を駆け抜けていった。LEO IMAIのライブを見るのは久しぶり。昔はテクノ寄りの佇まいだったが、今はロックのど真ん中を撃ち抜くライブ。それがひたすら気持ちよかった。12月のワンマンライブが楽しみだ。
7月20日(金)新宿レッドクロス THE BOHEMIANS
ボヘミアンズのライブを見に新宿レッドクロスへ。今日は2デイズライブの1日め。チケットは両日即完。最近のボヘミアンズのライブの安定感は抜群。どんな会場で見ても即座に場の空気に演奏とパフォーマンスをフィットさせることができる。今回は両日まったく異なる選曲でやると宣言。2日で40曲以上を準備してライブに臨んだ。平田ぱんだ(vo)曰く「前半は気だるく切ない夏の風景を描いた」。後半は熱いロックンロールで攻めるという展開。演奏時間もタイトにまとめられ、ますますロックンロール・バンドとして研ぎ澄まされてきた。2デイズ即日完売も、ボヘミアンズのライブの良さが徐々に広まっている証拠だと思う。
7月21日(土)新宿レッドクロス THE BOHEMIANS
ボヘミアンズの新宿レッドクロス2日め。宣言通り昨日とは1曲もかぶらないセットリスト。会場が盛り上がる定番曲も上手く両日に振り分けて行われた。40曲以上を準備。リハをやって本番に臨んだ、そのやる気だけでも悪いライブになるわけがない。最後の最後でレッドクロス15周年をお祝いしてアコースティックセットで1曲披露。ステージへの熱意、真面目さ。それがストレートに伝わってきたライブだった。ボヘミアンズは過去のレーベルの楽曲を再録したベスト盤をリリース。彼らはこのベスト盤を「新たなファーストアルバム」と呼んでいる。詳しくはインタビュー動画をチェック。LEO今井,
7月22日(日)Zepp Tokyo 女王蜂
女王蜂を見に超満員のZeppTokyoへ。オープニングから40分間ノンストップのダンスナンバーを叩き込んだあと、アヴちゃんの最深部へダイブ。一気にシリアスな空気が会場を支配する。この落差あるダイブが最高にスリリングだった。そこからまたかすかな光へ向かって徐々に加速。最後はZeppを巨大なディスコへと変えていく。シアトリカルな演出も大胆に取り入れ、照明や衣装まで完璧に仕上げられたエンターテイメントショウ。アンコールなし80分間の饗宴。女王蜂は目指していたライブについに到達した。
7月24日(火)渋谷CLUB QUATTLO フラワーカンパニーズ
真城めぐみ&うつみようこがコーラスで参加したフラワーカンパニーズのスペシャルライブを見に渋谷クアトロへ。コーラスを入れることでフラカンのナンバーが思いきり華やかに。鈴木圭介(vo)の歌のメロディも一層引き立ち、楽曲も立体的に変わる。6人のコンビネーションは抜群。お祭り的な雰囲気もありながら、決してお祭りでは終わらない。プロフェッショナル同士のぶつかり合いは、相乗効果により、ライブをゴージャスに昇華。最初から最後まで楽しかった。MCも楽しくて、ライブ中、終始笑っていたような気がする。フラカンはアコースティックセルフカバーアルバムをリリース。鈴木圭介とグレートマエカワ(ba)に動画インタビューをしたのでチェックしてください。
7月27・28・29日 苗場スキー場 FUJI ROCK FESTIVAL’18
今年もフジロックを見に新潟県の苗場スキー場へ。詳しくは別ページに書くが、今年は何といってもケンドリック・ラマーとボブ・ディランに尽きる。
7月30日(月)渋谷CLUB QUATTLO 泉谷しげる×仲井戸麗市
昼間、フジロックから戻って、夜は渋谷・宮益坂の青い森ならぬセンター街の渋谷クアトロへ。仲井戸麗市と泉谷しげるのライブ。67歳と70歳はさっとやってさっと帰ろうといいながら、3時間にわたるライブを敢行。最初は2人で演奏。途中それぞれのソロステージを経て、再び2人で登場。長年の友人同士という安心感と長年のライバル同士という緊張感。その2つの側面のバランスが新しいロックンロール・グルーヴを生み出していた。2人のあまりの爆発力に、一体何をもって年寄りだの若いだのというのだろう、と思って見ていた矢先、泉谷しげるが「俺たちをクラシックにするな。まだまだやれる」とMC。この言葉が今夜を象徴。ロックンロールにクラシックもクソもない。客席が年寄りばかりだが、この年寄りたちが感じているものはボヘミアンズの若い客となんら変わらない。フジロックからの移動疲れも軽く吹き飛んだ。
7月31日(火)三浦海岸OTODAMA STUDIO 山﨑彩音
19歳のソロアーティスト山﨑彩音メジャーデビュー後の初ライブを見に三浦海岸へ。ビーチに建てられたライブハウスOTODAMA STUDIOが会場。もはや海の家の概念を越えている。15時からの35分間の演奏。エアコンはなし。今まで表現したくても届かなかったオルタナ感がきちんとバンド全体で表現できていた。山﨑彩音のソロでありながらバンド全体で音楽を表現しているところもいい。セットリストは最新作『METROPOLIS』を中心に。詳しくはライブレポートを書いたのでそちらを読んでいただきたい。期待のニューカマーのひとりだ。
(森内淳/DONUT)