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森内淳の2018年8月 ライブ日記
見たライブの感想をガンガン書こうという趣旨のライブ日記。今回は8月編。いつものように新人バンドを中心になるべく多くのライブをピックアップした。今回は7月のフジロックの感想を書くことにする。いつもはフェス・レポートにするのだが、なにせフジロックはアヴァロンでアトミック・カフェ・ステージを作るというボランティア仕事がある。だから細かく場内をまわることはできない。そこでフェス・レポートよりもライブ日記で紹介した方がいいだろう、と勝手に判断した。ここではケンドリック・ラマーとボブ・ディランの所感を簡単に紹介する。
7月28日(土) ケンドリック・ラマー フジロック・フェスティバル
今年のフジは90年代ブリット・ポップやオルタナティブ・ロックの路線から外れたヘッドライナーで挑んだ。まずはそこを大いに評価したい。とくに2日めのケンドリック・ラマーは2018年のフジロックを象徴するブッキングになった。当初はヒップホップ・スターのヘッドライナーに動員が心配されたが、フタを開けるとそれはプラスに作用した。ステージに登場したケンドリック・ラマーはバンドをステージ上下に縦一列に並ばせ、だだっ広いステージでひとりでパフォーマンスを行った。すべてのアジテーション、ラップ、MCの内容をすべてひとりで背負った上でパフォーマンスを繰り広げた。英語がわからなくても、リリックの内容がわからなくても、パフォーマンスが示す彼の覚悟は伝わってきた。ケンドリック・ラマーはそのラップの内容が「現代を生きるアフリカ系アメリカ人の人生の複雑さを捉えながらも、文芸的小品として影響を与えている」と評価され、ピューリッツァー賞を受賞した。
7月29日(日) ボブ・ディラン フジロック・フェスティバル
どんなヒット曲であれ解体し再アレンジして演奏するのが最近のボブ・ディランだ。楽曲の原型さえとどめていない。そのボブ・ディラン、最初はスクリーンの使用も危ぶまれたそう。何の歌をうたっているのかわからない上に遠くからでは姿を見ることもできない。ステージに立っているのが本当にボブ・ディランかどうかすらも怪しくなってくる。最初このツアーをZeppDiverCityで見たときは上手く理解ができなかった。リスナーの物語と同化したヒット曲の数々が姿を変えてしまっては、意味がないようにも思えたからだ。その日のボブ・ディランの衣装もどことなく仙人っぽくて、どこか浮世離れしたような印象だった。ところがフジロックに登場したボブ・ディランはロックンローラーのように見えた。フジロックというシチュエーションがそう思わせたのかもしれない。あるいはボブ・ディランのシンプルな衣装のせいかもしれない。Zeppのときのような威厳をまとった表情ではなく、終始、柔らかい表情をしていた。理由はわからない。今回はボブ・ディランの方からフジロックに出たいと言ってきたそうだ。そういうことも関係しているのかもしれない。筆者はZeppの体験をふまえ、姿を変えたヒット曲の「原曲」を探ることを最初から放棄することにした。どんな有名な曲が変化した楽曲でも「ブランニュー・ロックンロール」として聴くことにした。既成概念を飛び越えることがロックンロールという行為ならば、ボブ・ディランは今もロックンロールしつづけているのだ。ならば彼のロックンロールを素直に受け入れ、楽しもうと思った。そうやって見方を変えたら、案の定、ステージはZeppのそれとはまったく違う輝きを放ち始めた。原曲が有名だろうが無名だろうが、すべての曲がとんでもなくかっこいいロックンロール・ナンバーとして響いた。今までつくった楽曲へのリスペクトは忘れないが、ノスタルジックな感情はいらない。そう楽曲が言っているようだった。
8月4日(土) ニトロデイ 他 横浜BBストリート
ニトロデイのロクローと知り合ってからというもの、BBストリートにやたらと行くようになった。東横線沿線に住んでいるからなのか、横浜はやたらと居心地がいい。BBストリートはビルの12階にあって、横浜の夜景を見ながらのライブも気分がいい。この日は横浜出身のバンド、ニトロデイのツアー初日。ニルヴァーナ的グランジサウンドと日本のロックのメロディラインが融合したオルタナティブ・バンド。人見知りな性格が奏功し、MCがほとんどないまま音楽だけが疾走する。その佇まいがなんともかっこいい。今日も最初から最後まで心地よい轟音が突き抜けた。この日の共演はbetcover!!、Layne、突然少年。Rock isでもおなじみのバンドが揃った。Layneも突然少年も音がデカい。そのなかでbetcover!!だけが異彩を放っていた。betcover!!についてはあとでくわしく書く。マイ・フェイバリット・アーティストのひとり。そして才能のカタマリ。それがbetcover!!。この日はTVK『ジロッケン環七フィーバー』のカメラも入って、ニトロデイのレコ発ツアー初日を盛り上げた。オンエアでは人見知りすぎてインタビューに誰も答えないという珍事も。THIS IS JAPANの杉森ジャックが電話出演して盛り上げようとするも玉砕。言葉がなくても彼らの音楽は雄弁に物語を語っているからいいんだけど。筆者がやってるWEB DONUTではたくさん喋ってくれたので、時間があるときに読んでみてください。
8月6日(月) LEO IMAI 他 渋谷WWW
渋谷WWWにて『あしたのジョー』の未来版アニメ『メガロボクス』の音楽イベント。お目当ては二番目に登場したLEO IMAI。アルバム『VLP』の多彩な音楽性を強靭なサウンドに落とし込む様があまりにもかっこよすぎて、LEO IMAIにハマり中。今日も重量級のビートをガンガン鳴らして30分ほどのステージを駆け抜けていった。会場にはアニメーションのファンも多く見受けられたが、一切媚びることなく、ロックの衝動をひたすら体現するステージに感動。しかも1曲目からアニメのテーマにもなった「Bite」を投下。出し惜しみなし。その潔さにもしびれた。LEO IMAIは12月7日にレコ発のワンマンライブを、同じく渋谷WWWでやる。
8月9日(木) THIS IS JAPAN 下北沢シェルター
ニトロデイによって滑らされてしまった杉森ジャックだが、ライブはばっちり決めてくれた。ディスジャパは今や日本のオルタナシーンを牽引する兄貴的存在のバンド。今回はレコ発ツアーのファイナル。しかもワンマンライブ。『FROM ALTERNATIVE』は轟音と疾走感に開き直ったアルバム。何がオルタナティブなのかその定義は人それぞれ。そのなかで彼らが選んだのはオルタナの原点ともいうべきグランジロックの激しさだ。他人の評価がどうであれ、そこに焦点を絞って作品を作り上げたことはさらなる自信をバンドにもたらしたと思う。堂々とした「腹、括ってます」という宣言がそのまんまステージとして現れていた。彼らは12月4日に新代田FEVERで自主企画「NOT FORMAL vol.7」を開催。共演はMASS OF THE FERMENTING DREGSと羊文学。羊文学もいいバンドなんだよなあ。
8月16日(木) ドミコ、トリプルファイヤー 恵比寿リキッドルーム
トリプルファイヤーを検索すると「吉田靖直」「ダメ」というワードがぞろぞろ出てくる。どうも吉田靖直という人はダメな人らしい。ダメな人だからこそタモリに好かれているという。役者もやっているという。ぼくはトリプルファイヤーの良さをわからないでいたけれど、「ダメが原動力」という考え方は彼らの音楽の印象を一変させた。……というふうに理解してライブを見ればよかったのだが、この日はただただ呆然とステージを眺めて終わった。一番ダメな聴き方だ。ドミコは今日も安定感のあるライブを披露。とくに新曲「ベッドルーム・シェイク・サマー」が秀逸。浮遊感のあるサウンドとボーカルの絡みが気持ちいい。見方を変えるとポスト・パンクのようでもありサイケデリックのようでもある。リフをガンガン響かせるのがドミコの唯一無二の武器だと思っていたが、まだまだ音楽性もアプローチも広がっていきそう。たった2人しかいないバンドには無限の可能性が備わっている。
8月19日(日) ザ・コレクターズ 渋谷クアトロ
初めて読んだ人のために毎回書くけど、コレクターズは毎月、渋谷クアトロでライブをやっている。これはコレクターズ恒例の「クアトロ・マンスリー」という企画。今までは最長でも5ヵ月くらいだったんだけど、それを1年を通してやってみようという試み。これを書いている時点で12ヵ月連続ライブのチケットはオールソールドアウト。しかも全部の回で即完となった。コレクターズは結成30年超えのベテランバンド。実力のあるバンドとしてロックファンやミュージシャンの間では常に評価されていた。それが日本武道館公演を機に一気により多くの音楽ファンへと届いた。彼らのやっているポッドキャストも大人気で、そのおかげで音楽ファンじゃない人を音楽ファンにするという開拓者でもある。クアトロマンスリーは通常のツアーではやらないような楽曲もセットリストに組み込み、コアなファンも楽しみにしている。この日もいきなり未発表の新曲「クライムサスペンス」からスタート。この曲は11月7日にリリースされる『YOUNG MAN ROCK』に収録される。他には古市コータローのリフがかっこいい「ミノホドシラズ」。名盤『東京虫BUGS』に収録されている「ザ モールズ オン ザ ヒル」などを披露。
8月19日(日) バレーボウイズ 下北沢ベースメントバー
期待のニューカマー バレーボウイズの初ワンマン。会場は満員。持ち歌をほぼ投入しての気合のライブ。曲にもよるがフロントの4人がボーカルを担当。コーラスではなくあくまでボーカル。歌メロは昭和テイストなニューミュージックのよう。だが、サウンドはロック。ロックで合唱するというありそうでなかったコンセプト。ライブパフォーマンスで特徴的なのはひたすらパンクなノリの前田流星と創作ダンスを繰り出すオオムラツヅミ。この二人が毎回輝いている。この日は前田流星がフロアに降りて熱唱するという場面も。「青春歌謡」というイメージからは程遠い熱狂の渦が生まれた。やっぱりバレーボウイズは正真正銘のロックバンドなんだ。
8月20日(月) 映画『THE COLLECTORS~さらば青春の新宿JAM~』初号試写
コレクターズのドキュメンタリー映画の初号試写。モッズの聖地だった新宿JAMがビルの取り壊しのために閉店。同ライブハウスはコレクターズが初めてワンマンライブをやった会場。そこでのライブの模様を中心に、コレクターズがこだわったモッズとは何かということについて掘り下げる内容。バンドのドキュメンタリーであるのと同時にモッズ文化のドキュメンタリーでもある。この映画の最大の見所は「モッズというスタイルにはこだわるが、モッズ・シーンに未練はない」というところ。何が彼らを孤高のモッズバンドたらしめたのかが解明できる。ファンならたぶんリピートして見に行くのではないだろうか。『カメラを止めるな』みたいにならないかな、なんて加藤ひさしは言うが、世の中、そこまで甘くない。11月23日より全国順次公開。
8月21日(火) betcover!! 他 下北沢THREE
ヤナセジロウがMTRを駆使してブラックミュージックをベースに作った楽曲たちはどれもが勇猛果敢に音楽の可能性と取り組んだものばかり。1曲のなかでありえない転調をすることもしばしば。言葉の裏に核心を隠したリリックも面白い。この夏にリリースした『サンダーボルトチェーンソー』からは可能性しか見えてこない。この日のライブはギター、ベース、キーボード、ドラムという編成。途中、ヤナセジロウがひとりでアコースティックギターを抱えてうたった。一筋の照明の向こうに一筋縄ではいかないメロディラインが姿を現す。オリジナル・フィッシュマンズを21世紀バージョンにアップデートしたような歌に包まれる。常に革新的な音楽を目指し、その音楽に普遍性をもたらそうとする努力を怠らないbetcover!!のアティテュードこそがロックンロールといっていい。ちなみにこの日の対バンはニトロデイ。
8月26日(日) 浅田信一 代々木ザーザズー
プロデューサーとしてもミュージシャンとしても高く評価されている浅田信一。今日もライブは大盛況。満員で入口から奥へと進めない。今日は毎年恒例のバースデーライブ。今年で49歳だそう。NHK-FMのミュージック・スクエアでスマイルの曲をテーマにしたのはもう20年以上前のこと。光陰矢の如し。最近の浅田信一は「おっさん恐怖症」らしいけど、浅田信一の歌はいつだって切なさを抱えながら光へ向かって滑空している。そこに年齢は関係ない。若者であろうがおっさんであろうが胸の奥底に秘めた風景を歌にする。彼はいつでも「次の街へ行こう」と歌う。アンコールではコレクターズの古市コータローも登場。次回ソロアルバムも浅田信一がプロデュースするそうだ。
8月27日(月) DOUBLESIZE BED ROOM 下北沢ERA
DOUBLESIZE BED ROOMのワンマンライブ。全部で16曲を披露。ということは10曲入りのアルバムを作っても6曲余る計算。8曲入りのアルバムなら2枚作れる。なのに彼らはアルバムをリリースせずにワンマンライブを敢行。タイトルは「明るいバンド計画」。ブランディングやら商業的戦略やらで妙に頭でっかちになっている最近の若者をあざ笑うかのような破天荒なやり方は実に彼ららしい。予測不能で無軌道なスタイルは彼らの音楽ともシンクロしていることを考えると、これもまたひとつのブランディングであり戦略なのかもしれない。但野正和は日々いろんなことをぐるぐると考えるタイプなので、頭のなかでは明確な着地点を捉えているのかもしれない。何と言ってもまだスタートして1年未満のバンドなのだ。
8月30日(木) ニトロデイ 下北沢THREE
なんと今月3回目のニトロデイ。今回はイベントでも2マンでもなくワンマンライブ。しかもチケットはソールドアウト。感情を吐き出すように歌う小室ぺい。クールな佇まいで熱い演奏を繰り広げるやぎひろみ(gt,ジャズマスター)と松島早紀(ba)。それを支えるドラムのロクロー。この4人のアンサンブルは見るたびに精度を上げている。熱とクールの融合、オルタナと日本語ロックのメロディの合体。10代のバンドの未来は明るい。この日のDJはbetcover!!のヤナセジロウ。フロアにはbetcover!!のサポートギタリストで、エルモア・スコッティーズのクヌギミナトの姿も。明日のロックシーンを担う同世代のアーティストがTHREEに集う。まるで昔の新宿ロフトや渋谷・屋根裏のような雰囲気だ。この場所から新しいロックシーンが始まっていくのだ。まさに、今、歴史的な瞬間に立ち会っているのだ。そんな気がした。
(森内淳/DONUT)