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森内淳の2018年5月 ライブ日記
最近は10代〜20代前半のミュージシャンやバンドのライブを見に行くことが多い。今、ライブハウス・シーンにはたくさんいいロックンロール・バンドがたくさん出てきた。長いイベントは足腰にきて大変だが、応援したいという親心のようなものが芽生えてしまう。それに彼らのノビシロがとてもまぶしい。そんななか、5月はアイドルのライブを見に行ったり、2日連続で日本武道館に行ったりした。下北沢THREEでも日本武道館でも、そこにある熱量は同じだ。一番印象に残ったライブはWalkingsのワンマンライブということになるだろう。Walkingsのライブ、かなりすごいことになっているので、未見のロック・ファンはぜひ一度見てください。
5月1日(火) EMPiRE マイナビBLITZ赤坂
今日は久しぶりにアイドルのライブを見に行った。BiSHやBiSを擁するWACK期待のホープ、EMPiREだ。ブリッツは満員ソールドアウト。女性専用のエリアも設けられ、ファン層の広さが伺える。この日は、メンバーのひとりがBiS SECONDへ移籍、新メンバー2人が加入して新生EMPiREとなることから、まず11曲のセトリをこれまでのEMPiREで披露。そしてまったく同じ11曲のセトリで新生EMPiREがパフォーマンスするという斬新なステージだった。新生EMPiREからは、アイドルが醸し出す儚さから脱皮しエンタメの王道を力強く歩くポップ・ユニットとしての覚悟がにじみ出ていた。BiSHの成功がいい影響・刺激を与えているように思う。所属レコード会社のエイベックスの王道感も加味されたこともユニットにとっては大きな意味を持っている。
5月6日(日) KOTARO AND THE BIZARRE MEN カトレアホール
熊谷・八木橋百貨店のカトレアホールでKOTARO AND THE BIZARRE MENを見た。ビザールメンは古市コータロー(gt&vo/ザ・コレクターズ)が率いる現代版(加山雄三的)GSバンド。メンバーは加藤ひさし(ba&vo/ザ・コレクターズ)オカモト“MOBY”タクヤ(dr/スクービードゥー)キタシンイチ(gt/JFK)。メンバー全員が赤チョッキに身を包み、TEISCO製の楽器を使い、昭和テイスト満載の楽曲を披露する。コンセプトはGSであり昭和キャバレーの箱バン。毎年、バンドの売上からランドセルを熊谷の福祉施設に寄付するという「伊達直人」的側面も(実際に「伊達直人」という曲が持ち歌にある)。メンバーは多忙なので年に数回しかやらない。しかも(ホームグラウンド新宿レッドクロスでの)毎回チケットは即完してしまうので彼らのライブを目撃するのは至難の業だ。ぼくもここ2回は行けてない。2回行かないと1年くらいブランクが空くことになる。久しぶりのビザールメンはいつものように選曲も曲順も変わらぬまま、安定の昭和感で押してくる。ライブハウスとは違い、ホールということで、余計に昭和の歌謡ショウあるいは日劇でのGSショウのよう。PAから出る音もものすごくよくて、心ゆくまでコンサートを楽しめた。彼らは今年10周年だという。もしかしたらあと1回くらいは見られるかもしれない。
5月7日(月) the coopees、Drop’sほか 新宿レッドクロス
雨降りの月曜日。なかなか終わらない原稿を新宿のタリーズで書きまくっていた。時計を見たらとうにイベントの開演時間が過ぎていることに気づく。急いで会場へ。ちょうどクーピーズがセッティングをやっていた。クーピーズは京都のバンド。近年、ライブバンドとしてどんどんタフになっていき、前回のワンマンライブでは圧倒的なパフォーマンスを披露してくれた。「フジロックのルーキーに何度応募しても落選してばかり」というので、現在、当サイトで連載中の藤本浩史の4コマ漫画のタイトルを「フジロックへの道」とした。メンバーが4人になったDrop’sはメンバーが札幌から東京に出てきて、とにかくライブをやりまくっている。自分たちにしか表現できないロックンロールとブルース、それをポップに昇華させる術をライブのなかで模索しているかのようだ。このライブに向かう姿勢がとてもいい。この2バンドには軽音バンドのような妥協をせずにロックのど真ん中を貫いてほしい。
5月11日(金) クリープハイプ 日本武道館
クリープハイプ2度めの武道館公演。4年ぶりだという。客席は超満員。ステージ脇の北西と北東までめいっぱいに埋まっていた。後ろには巨大なスクリーンも設置されていて演出もそれなりに派手だった。クリープハイプの変わらぬ人気の高さを見せつけていた。尾崎世界観にはこれまで何度か取材をやらせてもらった。SHAKEというムックでは彼の写真を中心に構成したページをつくった。音楽から派生し、文学や写真といった表現を模索する彼ならではの、音楽文化に対する誠実さや真面目さがステージのあちこちから溢れていた。その真面目さゆえのジレンマのようなものまで、素直に表現してしまう不器用さも垣間見え、それもまたクリープハイプが信頼に足るバンドだという証なのだな、と思いながらステージを見ていた。武道館の満員の観客と一体化する姿よりも、むしろ「クリープハイプの孤高性」に震えた一夜だった。
5月12日(土) GLIM SPANKY 日本武道館
武道館に着いたのは17時15分頃。開演は18時のはずが武道館の前は閑散としている。会場のなかに入ったら満員の客席が目に飛び込んできた。チケットを見たら、まさかの17時開演。機材かなんかのトラブルがあったみたいで、開演が25分のディレイ。そのために最初から見ることができた。武道館というスペシャル感はなく、むしろお客さんが入りきれなくなったから会場を武道館にグレードアップしましたという余裕すら感じられた。彼らは「アイスタンドアローン」から始まり、アンコール3曲目の「Gypsy」までの25曲をいつものようにクールに演奏。それにしても特筆すべきは松尾レミの歌声だ。どんなに広い会場でもロック色に染める力を持っていることを見せつけられた。楽曲のアイディアも尽きないようなので、これからの活動を期待させる2時間だった。
5月13日(土) ザ・コレクターズ 渋谷クアトロ
ザ・コレクターズの12ヶ月連続クアトロマンスリー 5月編。今日のチケットも即完(一般発売された9月までのチケットは即完)。「Any Time Will Do」〜「ミッドナイトレインボー」〜「彼女はワンダーガール」の冒頭の3曲もよかったが、やはり今日のキモは「Punk Of Hearts」〜「フライングチャーチ」だろう。とくに「Punk〜」におけるオーディエンスの爆発はすさまじく、レギュラーのツアーでも「Nick Nick Nick」と同じようにクライマックスを彩る曲になりそうな予感が。そのテンションでなだれ込んだアンコールで完全燃焼。マンスリーも5回目で、中だるみすると思いきや、どんどんヒートアップしている。こういうライブを見せられたら、当然、次も行きたくなる。そのポジティブな連鎖が即完という現象を呼び込んでいるのだと思う。
5月14日(金) バレーボウイズ他 渋谷WWW
バレーボウイズは京都の7人組のバンド。メンバーはまだ若いのになぜか昭和ポップスの要素をたっぷり詰めた楽曲を次から次に繰り出す。しかも複数のメンバーが一緒に歌う「合唱」(ハモリではない合唱だ)というスタイルをとり、さながら昭和歌謡のレビューショーのようだ。それとは違うところはオリジナルの楽曲だということと、演奏がロック・テイストに溢れていること。こういうバンドは他にはどこにもいない。彼らがどういう経緯でここに着地したのかはわからないけれど、音楽シーンの中でも面白いジャンルを確立するのではないだろうか。
5月19日(土) THE BOYS&GIRLS 新代田FEVER
ボイガルのワンマンツアーの終着地は新代田FEVER2デイズ。その初日を見に行った。ボーカルのワタナベシンゴはソールドアウトしなかった悔しさをにしませていたが、最初の音が出た瞬間、そんなことはどうでもよくなった。冒頭からロックンロールと言葉が濃密に混じり合うボイガル・ワールドが炸裂。やや言葉が過剰に感じることもあるが(言いたいことは曲で十分に伝わってくるという意味で)、それも彼らの音楽とステージに対する誠実さのあらわれなのだろう。実際、濃密な音楽と言葉に感動して涙するオーディエンスもいっぱいいる。いいも悪いもさらけ出すのがロックンロールのライブならば、彼らのむき出しの必死さとがむしゃらさはロックンロールの究極を描いているのかもしれない。
5月20日(日) Walkings 下北沢GARDEN
ウォーキングスのワンマンライブは掛け値なしにものすごいライブだった。ニューアルバムの『tomodachi』もめちゃくちゃかっこよかったし(サブスクでも聴けるのでぜひ!)、ある程度はいいライブになるだろうなという予想はあった。しかしその予想は甘かった。遥か上の上をいくライブだった。クラシックロックもウォーキングスのフィルターを通すと、最先端のロックに変わってしまう。もはやロックが死滅寸前の日本の音楽シーンにおいて、こんな圧倒的な破壊力のロックがあっていいのだろうか。ただただ唖然とするだけだ。いや、もはやここには日本のロックとか洋楽とかいう壁はない。「そんなもんしゃらくせえんだよ」って言いたくなるようなライブだった。今年見たライブのなかで確実に最上級クラスだ。こういうライブを破格のライブというのだろう。渋谷MilkyWayでやった前回のワンマンからここまで大化けしているとは思わなかった。フジロックに出たら大受けするだろうな。
5月25日(金) 花魁少年、エルモア・スコッティーズ他 下北沢THREE
花魁少年は横須賀在住の3ピースバンド。ライブをやるたびにロックの息吹を思いきり吸い込んだ重厚なサウンドがますます確かなものになっている。「女子大生バンド」というイメージから最も遠いところに着地しているのが現在の花魁少年だ。今回のライブは「鬼ヶ島/ファンファーレを頂戴」のリリースイベント。ただこの音源は昨年夏に録音されたそうで、当然のことながら、現時点での花魁少年のほうが実力も表現力も上だ。花魁少年は6月23日に「ドロップのために/サイケデリックサンシャインアンドムーンライト」をリリース。同日、下北沢DaisyBarでライブをやる。今日はエルモア・スコッティーズが共演だった。轟音系のバンドが多いなか、歌を聴かせるエルモア・スコッティーズの存在は貴重だ。短いライブだったが、その存在は示せたと思う。
5月31日(木) ニトロデイ他 下北沢THREE
ニトロデイは横浜のバンド。今回は初の都内での自主企画。会場は満員御礼。話題のバンドだけに関係者の数も半端ない。楽曲も演奏もどんどん自由度を増し、もはやグランジやオルタナといった言葉では片付かないボーダレスな状態へ。フロント3人はまだ10代。それを考えると可能性しかない。彼らは7月に新作「レモンド e.p.」をリリース。8月よりリリースツアーに出る。ファイナルは同じTHREEで2マンライブ。演奏時間もぐっと増えて、いよいよ本領が発揮される。
(森内淳/DONUT)